温泉の禁忌症とは?環境省が2014年に改訂した浴用の一般的禁忌症と泉質別・飲泉の注意点、妊娠中が外れた理由と脱衣所の掲示の読み方

※本記事には広告・アフィリエイトリンクが含まれます。

温泉の脱衣所に貼られている掲示を見ると、「禁忌症」という少し難しい言葉が並んでいますよね。「自分は入っても大丈夫なのかな」と不安になったり、反対に、細かい字が多くて読まずに通り過ぎてしまったりする方も多いと思います。

この記事では、環境省が平成26年(2014年)7月1日に定めた「温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等の基準」を読みながら、温泉の禁忌症とは何か、どんな病気や体の状態が当てはまるのかを整理しました。あわせて、以前は禁忌症に入っていた「妊娠中」が外れた理由や、入浴・飲泉の注意、掲示の読み方も確認していきます。なお、この記事は公的な基準の内容を紹介するもので、個別の体調について判断するものではありません。持病のある方は、主治医に相談してから出かけてくださいね。

目次

温泉の禁忌症とは、1回の入浴でも害が出るおそれのある状態のこと

温泉地のガイドブックを楽天市場で探す

まずは「禁忌症」という言葉の意味と、なぜ脱衣所に掲示されているのかを見ておきましょう。言葉の意味を知っておくと、掲示を読んだときに必要以上に怖がらずにすみます。

禁忌症の定義と、温泉法第18条の掲示義務・10年ごとの再分析

環境省の基準では、禁忌症を「1回の温泉入浴又は飲用でも有害事象を生ずる危険性がある病気・病態」と説明しています。何度も通ううちに悪くなるものではなく、たった1回の入浴や飲泉でも体に良くないことが起こるおそれがある状態、という意味です。

同じ基準には、禁忌症に当てはまる場合でも、専門的な知識を持つ医師の指導のもとで温泉療養を行うことは妨げない、とも書かれています。禁忌症は「絶対に温泉へ近づいてはいけない」という決まりではなく、自己判断で入るのは避けて、まず医師と相談してほしい状態だと考えると分かりやすいかもしれません。

また、2014年の改訂では、病名などの表現をできるだけ平易な言葉にしたことも明記されています。以前の掲示よりも「少し動くと息苦しくなるような」といった、自分の様子に当てはめやすい書き方になったのはこのためです。

禁忌症の掲示は、施設が自主的に貼っているものではありません。温泉法第18条では、温泉を公共の浴用や飲用に使わせる者に対して、施設内の見やすい場所へ温泉の成分、禁忌症、入浴又は飲用上の注意を掲示するよう定めています。

環境省の審議会資料によると、掲示する内容そのものは法令で細かく決められているわけではなく、環境省が地方自治法に基づく「技術的助言」として基準を示している、という位置づけでした。一方で「適応症」については、法令上は掲示の義務がないと整理されています。

施設が掲示の内容を新しく作ったり変えたりするときは、あらかじめ都道府県知事に届け出る必要があるとされています。届出を受けた都道府県などは、専門の医師の意見を聴くことが原則とされていました。脱衣所の掲示は、こうした手続きを経て貼られているものなのですね。

掲示の中身は、登録分析機関が行った温泉成分分析の結果に基づくことが同じ第18条で求められています。さらに温泉法施行令第1条により、成分分析は前回から10年以内ごとに受け直す決まりで、結果の通知を受けた日から30日以内に掲示を書き換えなければなりません。掲示をしなかったり、うその掲示をしたりした場合は30万円以下の罰金とされています。脱衣所の掲示に分析した年月日が書かれているのは、この10年ごとの見直しがあるからなのですね。

2014年改訂後の「一般的禁忌症」と泉質別禁忌症

楽天市場で温泉旅行の準備グッズを見る

それでは、実際に何が禁忌症とされているのかを見ていきます。環境省の基準では、禁忌症を「一般的禁忌症」「泉質別禁忌症」「含有成分別禁忌症」の3つに分けて示しています。

浴用の一般的禁忌症、旧基準との違い、酸性泉と硫黄泉の泉質別禁忌症

どの泉質の温泉でも共通する浴用の一般的禁忌症として、基準には次のような状態が挙げられています。

  • 病気の活動期(とくに熱のあるとき)
  • 活動性の結核、進行した悪性腫瘍、高度の貧血など、身体の衰弱が著しい場合
  • 少し動くと息苦しくなるような重い心臓や肺の病気
  • むくみのあるような重い腎臓の病気
  • 消化管出血や、目に見える出血があるとき
  • 慢性の病気の急性増悪期

並べてみると、「熱が出ている」「出血している」「急に悪くなっている」といった、体が弱っている時期や状態が中心になっていることが分かります。病名があるかどうかよりも、今の体の様子に目を向けた書き方になっているのが特徴でしょう。

Xでは、禁忌症に悪性腫瘍が入っている理由を調べた方が、明治時代には衰弱したがん患者が遠くの温泉地へ湯治に出かけることが問題視されていた、と紹介していました。改訂後の基準でも「進行した」「身体衰弱の著しい場合」と条件がついていて、無理をして出かけることへの注意という意味合いが読み取れます。

愛知県衛生研究所は、1982年(昭和57年)の環境庁通知に示された旧基準の一覧を公開しています。そこでは浴用の一般的禁忌症として、急性疾患(とくに熱のある場合)、活動性の結核、悪性腫瘍、重い心臓病、呼吸不全、腎不全、出血性疾患、高度の貧血、そのほか病勢進行中の疾患、そして妊娠中(とくに初期と末期)が並んでいました。

新旧を比べると、「悪性腫瘍」が「進行した悪性腫瘍」に、「腎不全」が「むくみのあるような重い腎臓の病気」に変わっています。病名だけで一律に外すのではなく、症状の重さで線を引くようになったわけです。Xでも、人工透析を受けている方が、症状が安定していれば入浴は可能で、2014年の改定で一般的禁忌症から外れた、と発信していました。もちろん実際に入るかどうかは、主治医と相談して決めることが前提です。

泉質ごとの禁忌症は、改訂後の基準では酸性泉と硫黄泉の2つだけになりました。どちらも浴用について「皮膚又は粘膜の過敏な人」と「高齢者の皮膚乾燥症」が禁忌症とされていて、飲用の欄には何も書かれていません。

酸性泉や硫黄泉は、刺激が強い泉質として知られています。基準の入浴後の注意にも、肌の弱い人は酸性泉や硫黄泉などの刺激の強い泉質では、温泉成分を温水で洗い流したほうがよいと書かれていました。肌が敏感な方が温泉地へ行くときは、掲示の泉質名に「酸性」の文字があるかを見ておくと安心です。

旧基準では、塩化物泉に「腎臓病、高血圧症その他一般にむくみのあるもの」、硫酸塩泉に「下痢の時」など、多くの泉質に禁忌症が書かれていました。改訂でこれらの内容は浴用から外れ、飲用の注意として成分の量ごとに整理し直されています。

飲泉には成分の量で決まる禁忌症がある

持ち歩ける折りたたみコップを楽天市場で探す

温泉地によっては、源泉を飲める「飲泉所」があります。飲む場合の禁忌症は、2014年の改訂で大きく形が変わりました。

4成分の含有成分別禁忌症と、飲泉の量・15歳以下の注意

改訂後の基準には「含有成分別禁忌症」が新しく加わりました。これは、温泉1kgに含まれる成分の量から「1日にこれ以上飲むと禁忌になる量」を計算して掲示するしくみです。

成分 1日の限界量の計算式 当てはまる病気・病態
ナトリウムイオン (1,200÷A)×1,000mL 塩分制限の必要な病態(腎不全、心不全、肝硬変、虚血性心疾患、高血圧など)
カリウムイオン (900÷A)×1,000mL カリウム制限の必要な病態(腎不全、副腎皮質機能低下症)
マグネシウムイオン (300÷A)×1,000mL 下痢、腎不全
よう化物イオン (0.1÷A)×1,000mL 甲状腺機能亢進症

表のAは、温泉1kgに含まれるその成分の重さ(mg)を指します。たとえば基準の例では、ナトリウムイオン3,000mg、よう化物イオン1mgを含む温泉の場合、よう化物イオンからは1日100mL、ナトリウムイオンからは1日400mLという限界値が出ます。この温泉では、それぞれの量を超えて飲む場合の禁忌症として、甲状腺機能亢進症と塩分制限の必要な病態を掲示することになるそうです。

この例の温泉で考えると、よう化物イオンの限界は1日100mLなので、一般的な1回分とされる100〜150mLを1回飲むだけで、甲状腺機能亢進症の人には限界に届いてしまいます。

一方で、計算した限界値が500mL以上になる成分は、掲示しなくてよいとされていました。もともと1日の飲用量の目安が200〜500mLまでとされているため、それを上回る量はふだんの飲み方では届かない、という考え方だと読めます。

基準の「飲用の方法及び注意」には、飲泉の1回の量は一般に100〜150mL程度、1日の総量はおよそ200〜500mLまで、と書かれています。食事の30分ほど前に飲むのが望ましいことや、自分専用か使い捨てのコップを使うこと、飲泉場から飲む目的で温泉水を持ち帰らないことも挙げられていました。

さらに、15歳以下の人は原則として飲泉を避けること、服薬治療中の人は主治医の意見を聴くこと、とされています。pH3未満の強い酸性の温泉は、真水で薄めてから飲むよう掲示することになっていて、1回の量も100mLまでと決められていました。飲泉所で見かける「◯倍に薄めて」という表示は、この基準から来ているものなのですね。

誤嚥への注意が加わったのも改訂のポイントです。うがいをしたり、あわてて飲んだりすると気管に入ってしまうことがあるため、飲み込みに障害のある人は飲泉を行わないよう書かれていました。

妊娠中が禁忌症から外れた理由

滑りにくいルームシューズを楽天市場で探す

2014年の改訂で特に話題になったのが、「妊娠中(とくに初期と末期)」が一般的禁忌症から削除されたことです。

環境省の改訂と群馬県の注意事項、1,721人の妊婦を調べた報告

環境省の審議会資料では、主な変更点の最初に、一般的禁忌症から「妊娠中(とくに初期と末期)」を削除したことが示されています。改訂の理由は、旧基準が1982年に定められてから長い年月がたち、最新の医学的知見や科学的根拠を反映させる必要があったため、と説明されていました。改訂案の検討は2005年から日本温泉気候物理医学会で始まり、2011年には温泉療法医や事業者、利用者へのアンケート、2014年にはパブリックコメントも行われています。

群馬県の薬務課は、この改訂について「妊娠中の方も温泉を楽しむことができるようになった」と紹介したうえで、温泉成分そのものによる影響はないとしつつ、転倒に気をつけることを強く呼びかけていました。おなかが大きくなると足もとが見えにくくなるため、浴場の出入口や浴槽の段差に注意し、手すりを使うよう案内しています。

ほかにも、母体と胎児の負担になる長時間の入浴を避けること、高温の温泉では短時間の入浴にすること、水分補給と休憩をとることが挙げられていました。事前に産婦人科医や温泉療法医に相談すると、より安心して利用できるとも書かれています。

日本温泉気候物理医学会の雑誌には、2020年に「妊婦の温泉浴の安全性の検討」という報告が載っています。別府市と指宿市に住む妊産婦を対象に、自記式の調査票で温泉入浴の頻度と、早産や切迫早産、妊娠高血圧症などのトラブルの有無を調べたものです。

抄録によると、回収数は1,721例でした。妊娠の初期と中期では、週1回以上日常的に温泉に入る人と、週1回未満の人の間で、産科的なトラブルに有意な差は見られなかったそうです。妊娠後期では、週1回以上入る人のほうがトラブルが少なく、20.3%と25.9%という結果が報告されていました。著者らは、温泉の禁忌症から妊婦が削除されたことは適正だったと結論づけています。

ただし、これは日常的に温泉に入る地域の妊婦を対象にした観察研究です。旅行先で長湯をしたり、熱いお湯に入ったりしても大丈夫、という意味ではありません。妊娠中の経過は一人ひとり違うため、出かける前にかかりつけの産婦人科で相談しておくのがいちばん確実でしょう。

禁忌症と一緒に掲示される入浴の注意と、掲示の読み方

濡れた物も入れやすい温泉バッグを楽天市場で見る

禁忌症に当てはまらない人でも、入り方によっては体調をくずすことがあります。基準では、入浴の前・最中・後に分けて注意が整理されていました。

入浴前後の注意と42℃の目安、湯あたり、脱衣所の掲示の4つの欄

入浴前の注意としては、食事の直前・直後や飲酒後の入浴を避けること、とくに酔った状態では入らないことが最初に書かれています。運動後30分程度は体を休めること、高齢者や子ども、体の不自由な人は1人での入浴を避けるのが望ましいことも挙げられていました。起床直後などは、あらかじめコップ1杯ほどの水を飲んでおくよう求めています。

入浴の方法では、高齢者や高血圧症・心臓病の人、脳卒中を経験した人は42℃以上の高温浴を避けること、心肺機能が低下している人は全身浴より半身浴や部分浴が望ましいことが示されていました。入浴時間は、初めは1回3〜10分程度とし、慣れてきたら15〜20分程度まで延ばしてもよいとされています。

浴槽から出るときは立ちくらみに気をつけてゆっくり出ること、めまいや気分の悪さを感じたら近くの人に助けを求めて横になること、も書かれていました。入浴後は温泉成分をすぐに洗い流さずにタオルで拭き、30分ほど安静にすること、コップ1杯程度の水分を補給することが勧められています。

基準には「湯あたり」についての説明もあります。温泉療養を始めておおむね3日から1週間前後に、気分が悪くなる、眠れない、胃腸の調子が悪いといった症状や、皮膚炎が出ることがあるそうです。そうした症状が出ている間は入浴をやめるか、回数を減らして回復を待つよう書かれていました。

ここでいう療養は、何日も続けて温泉に入る湯治のような過ごし方を想定したものです。基準では入浴回数についても、始めの数日は1日1〜2回、慣れてきたら2〜3回まで増やしてもよいとしています。連泊の旅行で何度も温泉に入りたくなる気持ちは分かりますが、初日から何回も入るのは控えめにしておきたいですね。少しでも体調に違和感があれば、その日は部屋で休むくらいの気持ちでいると安心です。

脱衣所の掲示は「温泉分析書」と一緒に貼られていることが多く、泉質名、禁忌症、入浴又は飲用上の注意、適応症といった欄に分かれています。禁忌症を確かめるときは、まず泉質名に「酸性」や「硫黄」の文字があるかを見てみましょう。それだけで、泉質別禁忌症が関係するかどうかが分かります。

また、温泉法施行規則に基づき、加水・加温・循環ろ過・消毒・入浴剤の添加を行っている場合は、その旨と理由も掲示する決まりです。環境省の基準の留意事項には、温泉は湧き出たあとに空気に触れて成分が変わることがあり、源泉で分析した結果をもとに掲示している場合はその旨が分かるようにすること、とも書かれていました。

一方で、適応症の欄はあくまで温泉療養の目安です。基準では、温泉療養の効用は成分だけでなく温熱や気候、生活リズムの変化などによる総合的な作用であり、成分だけで各温泉の効用を確定するのは難しいと説明しています。十分な効用を得るには通常2〜3週間の療養期間が適当とされていて、日帰りの1回で病気が治るような書き方ではない点も覚えておきたいところです。

温泉の禁忌症について知っておきたいことのまとめ

速乾タイプの温泉タオルを楽天市場で探す

温泉の禁忌症は、温泉法第18条に基づいて施設が掲示するもので、1回の入浴や飲泉でも害が出るおそれのある病気や体の状態を指します。2014年の改訂では、病名で一律に外すのではなく、熱があるときや出血しているとき、重い心臓・肺・腎臓の病気など、体の状態で判断する書き方に変わりました。

泉質別の禁忌症は酸性泉と硫黄泉の2つに絞られ、飲泉にはナトリウムやよう素などの量から計算する含有成分別禁忌症が加わっています。妊娠中は禁忌症から外れましたが、転倒や長湯、高温浴には注意が必要で、事前に産婦人科医へ相談するよう群馬県も呼びかけていました。

脱衣所の掲示は、泉質名と禁忌症、入浴の注意をひと通り見てから湯船に向かうのがおすすめです。気になる持病がある方は、旅行の前に主治医へ「温泉に入ってもいいか」をひとこと確認しておくと、安心して温泉を楽しめるでしょう。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

湯めぐり番のアバター 湯めぐり番 編集担当

温泉の楽しみ方や土地ごとの魅力、入浴時に知っておきたいことを集めています。

目次